来 歴


魂の領分


あなたも知らないのですか
たそがれと夜とのあいだにある
たそがれでも夜でもない時間を
あなたは知ろうとしないのですか
人間はいつも知らない
知っているといって
他人のことならば
たかだかまるい顔のいくつかと
それにつけられた同じ数の名前ぐらい
自分ことさえ
さっぱり不案内なくせに
他人が気にかけているとなれば
見えない向こう側のことまで知りたがる
ほんとうに知らなければならない
自分の魂について
たしかにこれがそうだと
ためらいなく言いきる者はない
手や足ははっきりと見えるけれど
その奥のどの部分から
魂とよんでいいのか知らない
ある日野を行きながら
あなたは気づかないのですか
去年の枯れ枝の先に
青いしなやかな新芽が生まれているのに
風にあんなに揺さぶられながら
黙って伸びるだけ伸びてしまう
強い力が見えないのですか
まだわからないのですか
魂は手や足をはなれて
あんなに空に近い
木の枝に存在することもあるのだということを

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